教育して顧客にする、ということもあるのですが、実際は自社の価値観を
評価してくれる会社や人を探す、ということの方が多いかもしれません。
かくいう私も今その真っ最中ですが、実は何年も前からある形の会社を
思い浮かべていました。
それは、小規模の会社でありながら、
- 自社独自の技術を開発して
- 特許なんかも取ったりして
- 業界に囚われず、いろんな業界、業種に製品を納めて
- 自社商品を一度だけでなく何度もヒットさせている
というような会社はないのかな、とアンテナを張っていました。
もちろんマーケティングに携わる身としては、このような形態の会社を
いきなり目指すのはおすすめできません。
資金に余力のない状態であれば、
- マーケットの調査をし
- 競合がいるかを確認し(いないとマーケット自体ができていないと判断)
- 競合と同じような製品を少し良いモノで作れるか
- 競合に対して有利であり続ける仕組みがあるか
などなど慎重にいくべきと思います。
前置きが長くなりましたが、そんな会社が見つかりました。
インターネットである会社のホームページを見ていると、明らかに今まで
見てきたホームページとは違う、違和感を感じました。
まず小さな会社(10名程度)なのに難易度の高い製品を作っています。
具体的な製品の詳細はあえて伏せておきます。
製品(生産財ではなく消費財、BtoC)を研究開発し、販売先の業界が
製造業、農業、建設業など多岐にわたります。
そして、多くの大学と研究の提携を結んでいます。
もちろん特許もたくさんもっています。
これは直接話を聞くしかないと、アプローチの方法を考えました。
あなたなら、こんな人に会う約束を取り付けるためにどういうアプローチを
しますか?
1 飛び込み訪問する
うむ。元気があってよろしい。一番手っ取り早い方法です。社長がそこにいる場合会える可能性は高い方法かもしれません。ただ、多忙な社長の場合、何か取り込み中であれば、ばっさり断られて、二度目の面談を申し込みづらいかもしれません。
2 いきなり電話する
うむ。悪くないかもしれません。ただこんな会社の社長はそもそも忙しいし、
会いたいという電話も多く受け取っているはずなので、断られる可能性は高まる
でしょう。
先の飛び込みより、会っていない分難易度は高くなってしまいそうです。
3 Eメールする
うーん、相手の年代が30代以下ならこの方法も有効かもしれません。
ただ、このようなメールは一日に何十通も送られてくるメールに埋もれてしまう
可能性も高いです。仮に読まれたとしても返信してくれる可能性は10%もない
でしょう。返信もないまま次のコンタクトは取りづらくなるし、相手も気まずく
なってしまいそうです。
4 手紙を書く
今どき古風な香りすらします。結果からいうと、私はこれをしました。
もちろん手書きです。便箋3枚です。なぜ会いたいのか、を事細かく書きました。
そしてちょうど一週間後の何日何時にお電話します、と伝え、お取込み中で
あったり、ご不在であれば後日かけなおす、と書き、送りました。
そして電話で話すことに成功しました。ちなみに手紙の時点で、私はどんな人間か、
経歴か、はそこそこ詳しく書き、今している事業については概要を2、3行で
話したのみです。
いざ、電話で話す!
さあ約束の日の約束の時間ピッタリです。軽く緊張しながら発信音がなります。
ガチャっと受話器を取る音がして、男性の声が聞こえます。
「ロクジ研究所の井垣と申しますが、○○社長いらっしゃいますでしょうか?」
「ああ、井垣さんですね。少々お待ちください」
ふむ、あらかじめ私から電話があることを伝えてくれていたことがわかります。
つまり、いきなり電話をかけてくる、会ったことのない人の電話は取り次がない
ようにしていることが推測できます。
危ない、危なすぎるぜ。飛び込み訪問やいきなり電話をチョイスしていれば
失敗に終わったパターンであることが濃厚です。
○○社長「ああ、手紙見たよ」と話してもらい、電話で話を続けます。
ここでも手紙に書いた内容をもう一度繰り返します。
やはり推測していたとおり、そのような面会を求める電話や訪問が多いので、
普段は断っているそうですが、
「キミなら会ってもいいよ。」
と言われました。理由を後で聞くと、
- 場所が比較的近いから
- 手紙を書いてきたから
とのことです。
ここで場所が近いからの理由だと、この記事の意義がほぼなくなりますが、
実際そんなもんかもしれません。
ただ、個人的な手紙を受け取って嫌な思いをすることは、あまりないと思います。
特に私はほぼ一切自分の事業の売り込みなどせず、徹底的に相手のことを
書きました。これは相手の時間を尊重していることも伝わるし、会いたい気持ちの
強さも受け取ってもらえたのかな、とも思います。
いずれにせよ、今まで会ったことのないタイプの人といよいよ会うことになりました。
直接対決!違う、面談!
軽くビビりながらいざ会社へ。従業員の人らしき人に、訪問の旨を伝える。
ふむ、スタッフは少ないが、みなニコニコ挨拶してくれる。
10名にしては広いオフィス兼工場の奥の作業場に、○○社長はいた。
数分の挨拶兼自己紹介の後、まず最初に宣言する。
「今日は○○社長がどのようにこんなずば抜けた事業を作り上げられたかを
お聞きしにきました。なので私の話は一切しません。もしお聞きになりたい
ことがあればなんでも答えますが、なければどうぞお話しください。」
こんなこと言うヤツ今まで会ったことない、みたいな顔をしながら色んなことを
お話ししてくれました。箇条書きにしてみると、
- 企業間取引しかしてこなかった会社が、どのように消費財のヒット商品を作り続けることができたか
- 商品がヒットした瞬間全然別の業界の商品開発に着手する
- 「できものは大きくなったらつぶれる」会社も同じだ、の話
- 自分の利益を忘れて人の利益を考え続けると、不思議と困ることはない
- 唯一の泣き所であった事業の後継者が見つかった話
- 小さいことで感動できる人間になれ
- トルコで「東洋のダヴィンチ」と称された話
- NHKがこの間も取材に来て、テレビで放映された話
等々。その他にも多数。後半まったく事業と関係ない話になっていますが(笑)。
ここに書けないような話もたくさん聞かせていただきました。
すべての話が興味深かったのですが、このサイトはマーケティングがテーマ。
マーケティング的視点からこの会社を解剖してみたいと思います。
まず驚いた、というより納得したのが、この○○社長はマーケティングを良く
分かっている、ということでした。
電話で話した感じでは、あまりそのあたりのことを知っていそうな感じはせず、
もしかするとスーパー優秀な従業員か何かがいて、社長自身の製造関係以外の
能力はどうなのだろうと思っていました。
ところがどっこい、ものすごく冷静に自社や製品、市場のことを分析していて、
いちいち納得のいく理論、行動をとっておられます。
一例ですが、
「小さい会社がいくら売れる製品を作ったところで、それが本格的に売れ始めたら
大手が入ってくる。そうなれば小さな会社は勝ち目がない。だから一生懸命研究
開発し、市場の調査もしながら同じ業界、業種に留まってはいけない。
何か後の世代のために、と考え続けていれば、必ず役に立つものを作ることが
できるし、それが例え完璧なものでなくても、改善は後でもできる。」
ここには重要なマーケティングのヒントがいくつもちりばめられています。
- 小さな会社の戦い方
- 業界業種を固定してはいけない
- リーンスタートアップ(最低実用に足る製品を作り、利用者の反応を
検証しながら迅速に改善していくという事業の作り方)
まさに小さくても強い会社のマーケティングにおいての戦い方だと思います。
もちろん口で言うのは簡単で、実現するにはいろんな課題もあったりするのですが、
やっぱり何か一つ事業の運営について突き抜けたものがいるとしたら、
「マーケティング」
なのだと再認識しました。
以上参考になれば幸いです。